創業60年、広島市中区昭和町で出逢った🍽️精肉店の矜持が詰まった「牛すじコロッケ」

グルメ

広島の街を歩いていると、ふとした瞬間に「あ、ここは他と違う」と感じる店に出会うことがあります。中区・昭和町。その名前通りの空気を纏った一角で、二代にわたり揚げたての音を響かせているのが、今回訪ねた精肉店です。


効率よりも大切にしたい「揚げたて」の距離感

店内に一歩足を踏み入れると、まず驚かされるのは、ショーケースに「揚げおき」の惣菜が並んでいないことです。注文を受けてから、店主が大きな手で一つひとつ衣をつけ、熱い油の中へ。その場で立ち昇る香ばしい熱気は、待っている時間さえも「ご馳走」に変えてしまいます。

昨今の効率重視の時代において、この「手間を売る」スタイルを60年も貫くのは、並大抵のことではありません。壁を埋め尽くすサイン色紙の数々は、その誠実な仕事に魅了された人々が、世代を超えてこの場所を「街の拠り所」として選んできた証と言えるでしょう。先代から受け継いだ技術を大切にしながら、目の前のお客さんのために時間を惜しまない姿勢こそが、広島の日常を支える大切な価値を形作っています。


ソースを拒むほどの説得力に納得!牛すじコロッケの真髄

看板メニューであるこの「牛すじコロッケ」を手に取ると、まず衣の力強い指触りに驚きます。少し厚めに、しっかりと色付くまで揚げられたサクサクの衣。それが、中から溢れ出すねっとりとしたジャガイモの優しい甘みを、いっそう鮮やかに引き立ててくれます。

一口噛み締めれば、ソースをかける隙などないことに気づかされます。具材の主役は、ひき肉ではなく、じっくり甘辛く炊き上げられた「牛すじ」。精肉店ならではの肉の旨味と、ジャガイモの糖分が見事に調和しており、一口の満足感が違います。長い歴史の中で、その時々の素材や時代の好みに合わせ、店主が少しずつ工夫を重ねてきたからこそ、今のこの味が完成されているのだと感じます。

広島の歓喜を分かち合ってきた、街の止まり木

この店が多くの人々から深く慕われているのは、ここがお惣菜を買い求めるだけの場所ではなく、広島という街の記憶を共有し続けてきた稀有な存在だからでもあります。広島の街全体がカープ一色に染まる優勝時には、この小さな店舗もその熱狂の渦に包まれました。

2016年の25年ぶりリーグ優勝や、その後の3連覇という黄金期には、店主とお客さんの間で弾けるような「おめでとう!」が交わされてきました。サイン色紙に刻まれた日付やメッセージは、当時の街の熱量を今に伝えるタイムカプセルのようです。そんな地域特有の連帯感や、人と人との体温が、この一軒には今も色濃く残っています。

街の記憶を探索する楽しみ

揚げたての袋から伝わる熱量は、そのまま店主の誇りの重さだと感じました。鮮度を逃さない「注文後の衣付け」、ソースに頼らない「牛すじ」の深み、そして広島の熱狂を共にした「街との絆」。60年という歳月を経てなお愛され続ける理由が、その一口の中にすべて凝縮されています。

広島には、まだ見ぬ物語を秘めた名店が、名前も知らない小さな通りにいくつも眠っています。今回伺ったのは、広島市中区昭和町にある「小林正肉店」です。もしあなたが、街の歴史に裏打ちされた、「そこにある…ずっと変わらいものを探しているなら、ぜひ一度、この温かい暖簾をくぐってみてください。

【今回ご紹介したお店】 小林正肉店

食べログ:小林正肉店 (※営業時間は変更になる可能性があるため、訪問前にご確認ください)


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