
ある日のこと。 しばらく歩いて時計を見ると、いつものバスの時間まで少しだけ余裕がありました。
「……この時間だけど…あのお店、まだ開いているかな」
ふと思い浮かんだのは、路地裏に静かに佇む、おはぎのお店のこと。 SNSで見かけてからずっと気になっていたその場所は、看板こそありませんが、木の板張りがきれいな、どこか凛とした佇まいをしています。一見すると、おはぎ屋さんだとは気づかないような隠れ家のようでけれど、風にゆらりと揺れる暖簾と幟を見つけると、それだけでなんだかホッとした気持ちになります。
お昼を待たずに売り切れてしまうことも多いので、遠くにあの幟が揺れているのが見えただけで、「今日は良い日になりそう」と、心が小さく弾む私にとって、ささやかな幸せをくれる場所なのです。
ドキドキしながら角を曲がって、木の壁にポツリと開いた、小さな販売窓口が目に入った瞬間。 「よかった、まだ開いてた」 その景色に出会えただけで、心の中に灯がともったように、ふんわりと明るくなりました。
小さな窓口から手渡される、丁寧な「ひと箱」
窓口を覗いて、今日のおはぎに出会えた瞬間の幸運がただ嬉しくて、自然と口元がほころんでしまいます。
注文してから、店主さんが一つひとつ、そっと箱に並べてくれる。小さな窓口の向こう側で、静かに、けれど迷いなく動くその手元を見つめているだけで、なんだか心が洗われるような、穏やかな時間が流れていきます。
大切に抱えて帰る道すがら、腕の中に伝わってくるおはぎの、ほんのりとした重みを感じるたびに、今日ここに来てよかったな、という実感がじわりと胸に広がりました。
木造の壁に包まれた、ひたむきな手仕事
装いも新しく生まれ変わったこの場所は、一見するとそれとは分からないほど街に溶け込み、いまでは知る人ぞ知る名店として、たくさんの人に愛されています。
景色がどんどん移り変わっていくなかで、この木造の建物に息づいているのは、変わることのない「温かな手仕事」です。清々しくて気持ちの良い店構えは、店主さんの穏やかなお人柄や、あの優しくて上品なおはぎの味に、驚くほどぴったりと合っています。
多くを語らず、ただひたむきに美味しいおはぎを作りたい。そんな店主さんの真心が、おはぎのふっくらとした丸みにそのまま重なって見えました。時には早い時間に完売することもあるというその佇まいは、一日の仕事を丁寧に積み重ねている、そんな健やかで清々しい空気感に満ちています。
瑞々しさと、とろけるような口どけ
パックの蓋を開けると、しっとりと潤いを湛えたおはぎが並んでいます。 内側から光るような瑞々しい艶は、あんがたっぷり水分を抱いている証。パックの形がうっすら残るほど柔らかなその姿に、お箸を入れる前から心がときめきます。
そっと一口。お箸から伝わるのは、驚くほどなめらかな手応えです。 つきたてのお餅のような瑞々しさと、絹のような質感が重なって、口に運べばもち米が吸い付くようにしなやかに馴染んで、心まで一緒にとろけてしまいそうな、おだやかな食感です。
お餅になる一歩手前で留められたお米が、あんとお互いを慈しむように溶け合い、口の中でゆわっと解けていき、その繊細な口どけは、店主さんの温かな想いがぎゅっと詰まっている気がします。
小豆の香りを残してすーっと消える、上品な甘さ。 最後の一口を惜しむほどに幸せな時間が続いていく、心優しい美味しさでした。
広島の路地に刻まれる、静かな物語
広島の路地裏で、静かに、けれど確かな温もりを灯し続けているお店。 そのお店の名前は、「和菓子処 松」。
あの優しい食感は、これからもたくさんの人の心をふんわりと解いていくのだと思います。店主さんの変わらない真心は、この街の大切な宝物として、これからもずっと、みんなに愛されながら受け継がれていくはず。
今回の出会いで、広島にはまだまだ私の知らない、個性あふれるおはぎの世界があるんだと気づきました。もともとおはぎが大好きな私は、これからもこの街をゆっくり歩きながら、心惹かれる美味しさや、素敵な景色を探していけたらと思っています。
もし皆さんも、広島の街角であの静かな佇まいをふと見かけたならばぜひ、その小さな窓口をそっと覗いてみてください。 そこには、今まで知っていたおはぎとは少し違う、優しくて、おだやかな時間が流れています。
店舗情報:和菓子処 松
- 所在地: 広島県広島市南区比治山本町15-22
- 営業時間: 9:00〜20:00(売り切れ次第終了)
- 食べログ: 和菓子処 松


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