
広島駅から電車に揺られること約40分。東広島市の西条駅に降り立つと、ふわりと甘く香ばしい、お米が蒸し上がるような香りが鼻をくすぐります。そこは、白壁の蔵が連なり、赤いレンガ煙突が空を仰ぐ「酒蔵の町」。
数ある蔵が軒を連ねるこの町で、ひときわ静かに、それでいて力強い存在感を放っているのが「賀茂鶴酒造株式会社」です。創業150年を超えるこの老舗は、1900年のパリ万国博覧会で名誉大賞を受賞するなど、早くから世界にその名を轟かせてきました。
もしあなたが、この町で「自分にぴったりの一杯」を探しているのなら、この蔵が歩んできた時を少しだけ耳を傾けてみませんか。
🍶「醸造の神様」三浦仙三郎と、軟水への挑戦
旅先で飲むお水が、場所によって少しずつ味が違うことに気づいたことはありますか?西条の街に湧き出る水は、非常に柔らかい「軟水」に近い性質を持っています。
かつて、お酒造りにはミネラルが豊富な「硬水」が理想とされていました。硬水で造る酒は発酵が力強く進み、キリッとした飲み口の「男酒(おとこざけ)」と呼ばれます。一方、ミネラルが少ない軟水は、発酵のコントロールが非常に難しく、かつては「酒造りには不向き」とさえ言われていました。
この不可能に挑んだのが、広島の酒造りの恩人・三浦仙三郎(みうら せんざぶろう)氏です。彼は何度も失敗を重ねた末、軟水でもお米の旨味を最大限に引き出す革新的な「軟水醸造法」を編み出しました。この技術を学んだ職人たちが「広島杜氏(ひろしまとうじ)」として全国へ羽ばたき、広島の酒を「造るのが最も難しい、なめらかな女酒(おんなざけ)」の頂点へと導いたのです。
広島県北部高原で育ったこだわりの酒米を吟味し、まるで赤子を育てるように低温で慈しむ。三浦氏の情熱を受け継いだ職人たちの執念こそが、今の賀茂鶴が誇るなめらかで豊かなコクの正体なのです。
🍶贅沢すぎる挑戦が、今の当たり前を創った
居酒屋さんや旅先のメニューで見かける「大吟醸」という言葉。今では広く親しまれていますが、この言葉をいち早く世に広め、文化として根付かせたのは、賀茂鶴酒造だと言われています。
昔は、お米をそこまで熱心に磨くことはありませんでした。お米を削れば削るほど、その量は減り、手間もコストもかさむからです。でも、彼らは「もっと澄んだ、お米の芯にある一番綺麗な味を届けたい」と、極限まで磨き抜いたお米でお酒を仕込むことに情熱を注ぎました。
それは、当時の常識からすれば驚くほど贅沢な挑戦でした。蔵人が、大きな桶を真剣な表情でかき混ぜているように、その一滴には、数字やデータだけでは測れない「人の手による執念」が詰まっています。

🍶伝統が導き出した黄金比「五拍子」の味わい
賀茂鶴のお酒を一口含むと、ある不思議な感覚に包まれます。それは「甘・辛・ピン・旨・冴」という五拍子が揃ったバランスです。
蔵に伝わる言葉で言えば、「アマからず、カラからず、ピンとしていて、ウマくちでかつ、サエる」。甘すぎず辛すぎず、心地よい刺激があり、旨みが深いのに後味はスッと冴えわたる。この「甘辛の中庸(ちゅうよう)」こそが、150年守り抜かれてきた信頼の味なのです。
🍶寄り添う、個性豊かな顔ぶれ
さて、実際に蔵を訪れたり、お土産屋さんを覗いたりすると、たくさんの「賀茂鶴」に出会うはずです。どれを連れて帰るか、あなたの旅の気分に合わせて選んでみてください。
- 旅の夜を華やかに彩りたい時に:大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴 桜の花びら型の金箔が舞う、ブランドの顔。芳醇な味わいは、かつて海外の要人をもてなす席でも選ばれました。贈り物や祝いの席にもこれ以上ない一本です。
- ワイングラスで優雅に楽しむなら:純米大吟醸 大吟峰 広島県産の山田錦を贅沢に使用。華やかで品のある香りと、純米酒らしい豊かな旨味が特徴です。
- 一人飲みや気軽なギフトに:特製ゴールド(180ml角瓶) 手のひらサイズの角瓶は、濃醇な旨口がぎゅっと詰まっています。新幹線の中での楽しみや、ちょっとしたお裾分けにも喜ばれます。
🍶食に寄り添い、温度で化ける「魔法の一滴」
賀茂鶴の真骨頂は、なんといっても「食中酒」としての懐の深さです。旨味が強いため、瀬戸内の海の幸はもちろん、幅広い料理にそっと寄り添います。
面白いのは温度による変化です。冷やしてフルーティーな酸味を楽しむのも良いですが、純米酒ならぜひ「燗(かん)」を試してみてください。熱燗にすることで、ほのかな甘味とキリッとした辛口のフィニッシュがより鮮明に立ち上がります。
🍶百年の歴史と、これからの景色
西条の町を歩いていると、古い建物の中に最新の機器が見えたり、若い蔵人さんたちが元気に挨拶してくれたりします。150周年の節目を迎え、次の100年を見据える賀茂鶴酒造。伝統的な広島杜氏の手法を守りつつ、時代に合わせて味を進化させていく。その終わりのない探究心こそが、賀茂鶴が色褪せない理由です。

🍶凝縮した最高の一杯を
駅のホームで電車を待つ間、ふと振り返ると、暮れなずむ空にレンガの煙突が見えるかもしれません。
賀茂鶴のお酒を一口含むと、広島の自然、杜氏の知恵、そして未来への希望が体に染み渡るようです。「広島に来てよかったな」そんな風に思える瞬間のお供に、ぜひ賀茂鶴を手に取ってみてください。あなたが持ち帰る一本は、単なるお酒ではなく、酒蔵の町・西条が大切に育んできた物語そのものなのですから。
※お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。


コメント