
駅前広場で出逢った🚌温もりあふれるレトロな木造バス
真夏の力強い日差しが照りつける午後、横川の街を散策していたときのことです。蝉時雨が響く駅前に差し掛かると、涼しげなガラス張りのスペースに大きな垂れ幕が飾られているのが目に留まりました。
「一体なんのブースだろう?」と眩しさを遮りながら足を進めると、そこに佇んでいたのは、現代の路上ではまず見かけることのない不思議な車体でした。
深い木目のぬくもりを感じさせるボディと、どこか愛敬のあるコンパクトなフォルム。最新型の乗り物にはないクラシカルで素朴な装いに、暑さも忘れて思わず見入ってしまいます。まるでこの一角だけ、明治の風が吹き抜けているかのような不思議な感覚に包まれました。
ブースに掲げられた案内板を読み進めてみると、そこには単なるクラシックカーの紹介にとどまらない、この街の熱い歴史と人々の誇りが綴られていました。今回は、この思いがけない出逢いから始まった「かよこバス」の物語と、今の横川で楽しめる体験についてご紹介します。
明治の街道を駆け抜けた🚌国産初となる乗合バスの原点

ガラスに貼られた解説パネルや設置された銘板に目をやると、明治の世に産声をあげた初代バスの歴史が詳しく刻まれていました。日本で初めて国産の乗合バスが誕生したのは、明治38年(1905年)の冬のこと。ここ横川から可部までの約15kmを結ぶ新たな足としてスタートを切りました。
銘板に刻まれた当時の新聞記事からは、開業式の様子が鮮明に伝わってきます。
当時の賑わいは目を見張るものがあります。出発地となった横川停車場(現在の横川駅)には青々とした緑のアーチが掲げられ、国旗が誇らしくたなびく中、音楽隊が祝賀の音色を響かせていました。
さらに盛り上がりを見せたのが、終点側の可部で催された祝賀会です。会場のすぐ傍らでは、当時ハイカラなスポーツとして流行していた自転車レースが余興として開催され、大いに湧き立ったのだそうです。モノクロ写真に収められた、物珍しそうに群がる人々や自転車に誇らしげに跨る選手の姿からは、新しい乗り物の登場に期待を膨らませていた街全体の高揚感が伝わってきます。
片道運賃24銭、12人乗りで始まった営業ですが、馬車や人力車が主流だった時代にガソリン車が走る光景は人々に強い衝撃を与えました。しかし、1トンを超える重い車体と当時の舗装されていないでこぼこ道の影響でタイヤが耐え切れず、わずか9ヶ月で営業停止という苦い決断を迫られることになります。
それでも、短期間で幕を閉じたこの挑戦とあきらめない精神は、100年の時を超えて広島のモノづくりやテクノロジーの礎となり、今もこの街に深く息づいています。
一度聞いたら忘れない🚌ふたつの街を結ぶ愛称の秘密

「かよこバス」という名前を初めて耳にしたとき、「昔の運転手さんの名前かな?」「開発に携わった女性の名前?」と想像された方も多いのではないでしょうか。
実はこれ、人物の名前ではなく、ふたつのエリアを結ぶ路線そのものを表したネーミングなのです。終着地である可部の頭文字「か」と、発着地である横川の「よこ」。このふたつの地名をつなぎ合わせて誕生しました。
この愛称が明治の開業当時から使われていたわけではないという点です。後年になって復元プロジェクトが立ち上がった際、「地域に根ざし、みんなから長く親しまれる存在になってほしい」という願いを込めて新しく贈られた名前なのだそう。「可部と横川をいつまでも笑顔で行き来するように」という地元の温かな思いと親しみが、この響きにぎゅっと込められていると思うと、ほっこりとした気持ちになりますね。
100年の時を超えて🚌地域の手で鮮やかに蘇るストーリー
一度は途絶えてしまった先人たちの挑戦。しかし横川地区を中心とする有志の人々は、この偉大な足跡と功績を後世へ語り継ぐため立ち上がりました。「当時の情熱と誇りを未来へ繋ぎたい」という思いのもと、横川商店街や可部の有志、地元の大学・専門機関が集結して手探りの復元プロジェクトがスタートし、2004年に見事現代の路上へ帰ってきたのです。
単に形を模倣するだけでなく、復元車には先人たちの失敗を教訓にした見事な知恵が隠されています。実は初代の心臓部はアメリカ製の18馬力エンジンを載せた日米ハイブリッド車でしたが、復元車ではホンダ・アクティの軽トラックをベースにして組み立てられました。
また、初代が重い車体と悪路でタイヤがもたず撤退した歴史を踏まえ、復元プロジェクトでは高価で重いケヤキの代わりに木目が美しくよく似た「タモ材」を採用。車体を700〜800kgほどに軽量化しました。「重すぎて走れなかった」という最大の課題を現代の知恵で克服し、歴史を安全に伝えるイベント用車両として見事に進化を遂げたのです。
復元までの詳しい経緯や車体の詳細スペックについては、横川商店街の「レトロバス(かよこバス)」公式ページでも詳しく紹介されています。
駅前展示で歴史に触れ🚌いつか走るその姿を心待ちにする

この歴史的な車両は、いまも横川の街のシンボルとして常時展示され、行き交う人々を出迎えてくれます。JR横川駅の改札を出てすぐの広場にはガラス張りのブースが設けられており、綺麗に磨かれた車体や記念の銘板をじっくりと見学することができます。地域の方々が大切にメンテナンスを続けていることが伺え、街の愛着を感じられる素敵なスポットです。
普段はこうしてガラス越しに佇まいを眺める「かよこバス」ですが、毎年、運行開始の記念日に合わせて開催される「かよこバス祭り」などのイベントでは、実際に外へ出て走行する機会もあるのだそう。エンジンの音を響かせて走る姿や体験乗車の賑わいを想像すると、いつかその特別な瞬間にも立ち寄ってみたくなります。
🚌一歩踏み込めば新発見!横川の歴史とカルチャーを巡る旅
先人たちのロマンと、100年の時を超えてそれを現代へ受け継いだ人々の情熱が詰まった「かよこバス」。駅前のブースでその佇まいを眺めていると、ただ展示を見るだけでなく、いつかイベントの日に実際に揺られながら、明治の人々が憧れた車窓の風景を追体験してみたくなります。

駅前広場をあとにし、商店街の中へと歩みを進めていくと、そこにはアートやカルチャーが息づく横川ならではの魅力的な街並みが広がっています。路地を散策していると、「横川カンパイ!王国」と書かれたこんなポップな案内看板が出迎えてくれました。街のあちこちに見られるユニークなウォールアートや、サブカルチャーの薫り漂う個性派ショップなど、歩くたびに新しい表現に出会えます。

新しい文化や試みを柔軟に受け入れてきた町衆の気風と、自由な表現がしっくりと馴染むこのエリア。どこか懐かしく、させて常に新しい発見に満ちた横川の路地を、皆さんもぜひ気の向くままに歩いてみてはいかがでしょうか。
【公式情報】
「かよこバス祭り」をはじめ、横川エリアで開催されている最新イベント情報はこちらからご確認いただけます:横川商店街 公式Webサイト(イベント情報)

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